就寝前に布団に入って、さあ寝るぞと思った瞬間。
脚の奥から、なんとも言えない気持ち悪い感覚がじわじわと湧いてくる。虫が這うような、電気が走るような、引きちぎりたいような——とにかく「じっとしていられない」。仕方なく起き上がって、暗い廊下を行ったり来たりする深夜2時。
これ、経験した人にしかわからない地獄だと思います。
西洋医学では「レストレスレッグス症候群(RLS)」あるいは「ムズムズ脚症候群」と呼ばれる、この病態。睡眠を根こそぎ奪い、精神的にも肉体的にも人を孤立させていく、なかなかに過酷なものです。
で、ここからが東洋医学の出番なんですが、
「RLSです」「ドパミン系の問題ですね」で終わらせない面白さが、東洋医学にはある。あの「ムズムズ感」の正体を、東洋医学はこんなふうに読み解くんです。
「乾いた大地に、風が吹いている」
・・・まあ、いきなりそう言われても意味わからんと思うので(笑)、もう少し丁寧に説明しますね。
東洋医学には「肝は筋を司り、蔵血を主る」という原則があります。簡単に言うと、肝は血液を貯め込んで、筋肉や神経に栄養を届ける役割を担っているということ。
ところが、長年の疲労・ストレス・不規則な食生活などで「血(けつ)」がじわじわと減っていくと、下肢の筋肉・神経が深刻な栄養飢餓状態に陥っていく。これを「筋脈失養(きんみゃくしつよう)」と言います。
ここで例え話をひとつ。
砂漠の乾いた大地は、ちょっとした風でも砂嵐になりますよね。潤いがあれば「ただの風」で済むところが、乾ききってわずかな突風が吹いただけでぶわーーっと激しく舞い上がる。
脚の筋肉も同じで、血という潤いを失った状態になると、体内で「内風(ないふう)」と呼ばれる病理的な揺らぎが発生するワケです。これが「血虚生風(けっきょせいふう)」という状態。
あの「じっとしていられない」「動かさずにはいられない」という衝動は、外から来ているんじゃなく、乾いた脚の内側で嵐が吹いているから——というのが、東洋医学的な解釈なんです。
しかも、症状が夜間に爆発的に悪化するのにも理由があります。夜は「陰」の時間帯。体内の血や潤いが内側に収まろうとするタイミングなので、もともと血が少ない人は「収まるものがなさすぎて」栄養失調が一番際立ってしまう。なるほど、夜に暴れるわけです(苦笑)。
東洋医学の改善アプローチは、脳のドパミン受容体を外から操作して「感覚を感じにくくする」薬的な発想とは、ちょっと違う。
身体を一つの生態系として見て、「なぜ乾いたのか」を根っこから解決していくイメージです。具体的にはこんな流れ。
血をつくる「工場」を立て直す
血を生み出すのは、消化吸収を担う「脾胃(ひい)」、つまり胃腸の働き。ここが弱っていると、どれだけいいものを食べても血になってくれない。鍼灸や漢方で脾胃の機能を底上げすることで、毎日の食事から良質な栄養がちゃんと「血」に変換される土台を作る。乾いていた筋肉に潤いが戻ることで、神経の過敏化が根底から緩んでいくというワケです。
ところで、西洋医学でRLSと診断されると、多くの場合ドパミン製剤が処方されます。
これ自体は悪い薬じゃないんですが、長期服用していると「症状促進(オーグメンテーション)」という現象が起きることがある。症状の出る時間が昼間にまで前倒しになり、両腕にまでムズムズが広がり、強度も悪化していく。薬を増やすとさらに悪化するというスパイラル。
(;゚Д゚) これ、相当しんどいですよね。
東洋医学がその人にとって「希望」になりうるのは、こういうジレンマを別の角度から解決できるから。副作用なしに、身体の自己調整力を内側から引き上げていく——薬の減量や離脱のサポートも、安全に行えることが多いと考えています。
東洋医学の真骨頂は、「病名を治療するのではなく、その人の歪みのパターンを読む」ところにあります。これを「証(しょう)」と言いますが、同じRLSでも、証は人によって全然違う。
たとえばこんな違いがある:
使うツボも、漢方処方も、まったく正反対になります。同じ「ムズムズ脚」でも、アプローチが一律でないのが東洋医学らしさ。
・・・う~ん、これが「オーダーメイド医療」っというものになります。
鍼灸施術を受けてみたいと思っても「今すぐ鍼灸院に行けないよ!」という方も多いと思うので、ハードルの低い「血」の養生法をシェアします。
① 「血」を補う食材を意識する
黒豆・ほうれん草・ひじき・黒ゴマ・クコの実・なつめ・プルーンなど、赤や黒の食材を積極的に。お腹(脾胃)が冷えていると吸収されないので、氷入り飲み物や生ものは控えめに。温かいスープや白湯を基本にするのが◎。
② 夕方以降は「温める・流す」
38〜40℃のぬるめのお湯で足湯や入浴をして、下肢をじんわり温める。
③ 夕方以降は「興奮物質」を断つ
カフェイン・アルコール・タバコは、東洋医学的に「内熱」を起こして筋肉のそわそわ感を爆発させます。夕方以降は完全にオフにする。
・・・まあ、カフェインを夕方以降に断つのは、正直しんどいんですけどね(笑)。でもそれくらい影響が大きいんですよ、本当に。
現代医学の「病名」の枠に翻弄されながら、強い薬を増やし続ける必要はない。
自分の身体が「気・血・水」のどこで詰まっているのかを読み解いて、鍼灸で経絡を整え、丁寧な養生を積み重ねていく。そうすることで、下肢の嵐は必ず静まります。深く穏やかな夜を、取り戻してほしいと思っています。